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榎原はしばしの沈黙の後、ハッとしたような表情になり、
「大橋さん、お久しぶりです。出張お疲れ様です」
と立ち上がって頭を下げながらそう挨拶をした。…生真面目さは健在のようだ。
「…え?あ、あぁ、榎原も元気そうで何よりだよ」
気まずくなる前まではもっとスムーズに話していたのに、何だかぎこちなく返してしまって、榎原に申し訳なかった。
そのとき、
「晴美!そろそろ出られる?」
と、仙台支社の晴美さんの同期が、晴美さんに声を掛けてきた。
「あ、うん!今行くよ!…奈々ちゃんごめん!本当は奈々ちゃんとゆっくり話したかったんだけど、仙台に同期がいて、飲もうって話になってるの。月曜日もいるから、そのときランチ一緒にしよう?」
晴美さんは同期に返事をしつつ、手を合わせて榎原に謝った。
「え?あ、全然私は…むしろお気遣い頂いてすみません…楽しんできてくださいね」
榎原は少し戸惑いながらそう答える。
その後、晴美さんは彼女の同期とどこかへ行ってしまった。
俺に、「いい加減にしなさい、このヘタレ!」と叱り付けてから、だったけれど。
そしてその場には、俺と榎原だけとなった。
しばしの沈黙が流れる。
榎原の表情を見ると、やっぱり気まずそうで、困っているような表情だった。
俺は意を決してそんな彼女に声を掛けた。
「…飯、食いに行かないか?」
「…え?」
榎原の瞳が大きく見開かれる。驚きと戸惑いが、感じられた。
…一足飛び過ぎたかな………。
「…嫌なら良いけど…」
…違う。こんな風に言いたいんじゃない。
これではまるでまたいじけているような、怒っているような言い方だ。
素直に2人で話がしたいと、何故言えないんだろう…。
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