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「………嫌じゃ、ないです…」
一瞬、聞き間違いかと思ったが、榎原は真っ直ぐこちらを見ながら言っていた。そこで今のが聞き間違いではないことを確信し、俺は心底ホッとした。
その後、榎原が帰り支度が終わるのをエントランスで待っていた。
「…お待たせしました」
急いでいたのだろうか。少し息を切らせながら言った。
「いや、大丈夫だよ。それじゃ、行こうか」
「はい…」
榎原が少し緊張した面持ちで、俺の隣を歩き始める。
無理もないよな…
あんな態度をずっと取り続けていたんだ。
俺は心底榎原に対して、申し訳なく思っていた。
だけどそれでも、久しぶり榎原が俺の隣を歩く光景が、この上無いほど嬉しかった。
またこんな風にこれからも一緒に歩けたら…
そんなことを願わずにはいられなかった。
「…榎原は何か食べたいものとかあるか?」
少しでも緊張を和らげようとして、リクエストを聞いてみる。
すると、
「えっと…あ、むしろ大橋さんは食べたいものありますか?折角仙台にいらしてるし、牛タンとかありますけど…」
と、逆に聞き返されてしまった。
俺を気遣ってくれたのだと思うと、嬉しくてつい顔がニヤけてしまう。
「俺に気遣わなくていいよ。今日は榎原の食べたいものにしよう?」
俺がそう言うと、緊張なのか遠慮なのか、小さく「はい…」と答え、その後は全くリクエストが出て来なかった。
さて…どうしたものか…。
ひとまず事前に調べておいた、榎原が好きそうなお店を3つ程ピックアップし、
「じゃあ…こことここと…あと、ここ!この3つならどこに行きたい?」
と、スマホの画面を彼女に見せながら、俺は聞いた。
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