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やがて部長に呼ばれていた晴美さんが戻って来ると、しばらく外す、とのことだったので、私に業務の指示をした。
「ごめんね、奈々ちゃん。ちょっと急な案件があって」
「いえ、大丈夫です…」
何となく、美織さんに何かあったんだろうけれど、何も聞けず、ただそう返事をするしかなかった。
「分からなかったら、主任の久保くんに聞けばいいから。久保くーん!」
呼ばれた久保さんは、黒縁眼鏡のよく似合う、優しいパパ、というイメージのある男性だ。実際に1児の父親で、昨年お子さんが生まれたらしく、デスクの上にはお子さんと奥様と3人で撮ったらしい写真が飾られている。
「了解ですー!榎原さん、遠慮なく聞いてねー!」
少し離れた席から久保さんは手を振りながら、答えてくれた。私は、「お願いします」と会釈した。
「じゃあ、行ってくるわね」
そして慌ただしく晴美さんは行ってしまった。
しばらくして、社内チャットに営業部に配属されている同期の小森 章から、彼と同じ部署に配属されているはずの同期を除いた同期全員に連絡があった。
何だろう?と思って開いて見ると、
『白石がやらかした!』
と、ある。
“白石”とは、同期の白石 愛菜のことだ。
そう、彼女こそが重役の娘であり、それを利用して周りに媚びているという、少々厄介な同期である。
しかし、やらかしたとは?何だか穏やかではない状況に、仕事中だと言うにも関わらず小森くんのチャットに返信した。
***
結局その日は、白石さん以外の同期が全員、急遽集まって、居酒屋で事の次第を小森くんから聞くこととなった。
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