1.切ない音

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大橋さんもそうなのだろうか。 こちらに全く話しかけてこない。 一緒に帰ることになったにも関わらず、沈黙がとても辛かった。 こういう時は、やっぱり後輩の私から話し掛けなくちゃだめだよね…。 どうしよう…。 ひとまず、当たり障りの無さそうなことから聞いてみることにした。 「お、…大橋さんは、いつもこんなに遅くまでお仕事されているんですか?」 すると大橋さんは、 「いや…そんなことはないんだけど、今日は急ぎの案件があったから…」 と、答えてくれた。 「そうだったんですね…お疲れ様です」 急ぎの案件…晴美さんもそんなこと言ってたな…。もしかして、大橋さんも美織さんのことで絡んでいたりするんだろうか? そんなことを思っていると、うっかり自分が会話を終了させてしまったことに気付き、またしても沈黙が流れてしまっていることに気が付いた。 やってしまった… 親しい人はともかく、慣れていない人との会話を広げることはやはり難しい。 何を話題にしたら良いだろうか… きっと今日のことを聞いたとしても、新人の私にはまだ詳しいことは教えてもらえないだろうし…。 もっと、何か世間話みたいな…。 そんな風に思い悩んでいると、大橋さんが声を掛けてきた。 「榎原こそ、こんな時間にどうしたんだ?残業はしてなかったよな?」 「え?」 突然話し掛けられて、素っ頓狂な声が出てしまった。 「あ、いえ…同期と飲んでたんです」 慌てて、私はそう答えた。 「へぇ…榎原の同期って、誰がいるんだっけ?」 大橋さんは更に話を広げてくれた。 私はそれが少し嬉しかった。
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