宣言屋さん

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 梅雨入り。梅雨前線の動きが活発になる頃、予報をもとに宣言するもの。  これには多少の問題がある。あくまで直近一週間程度の予報を基準にして宣言するというルールであるため、完璧と言えるタイミングで宣言できないのだ。  注意喚起の意味合いが強いため、間違っていたからといって非難されるいわれはないのだが、やはり正しい時期に宣言するに越したことはない。  そして、わたしが転属してきた係が、その梅雨入り宣言担当係だ。わたしが配属される前、宣言を誰もやりたがらないため、押し付け合いになっていたらしい。そのせいで、配属早々わたしが宣言担当にされてしまった。  これでは開花宣言係と大差ない。わたしは完全に騙されたわけだ。今さら文句を言ってももう遅いのだが。 「先輩、去年の梅雨入り宣言担当だったとお聞きしましたけど」  一つ年上の、雲井先輩。体が大きく、あまり喋らないが、進んで嫌なことを引き受ける人格者で通っている。 「うん。雨宮さんが担当するらしいね」 「そうなんですよ。もう今から緊張してしまって。梅雨入り宣言したのに、雨が降らなかったりしたら、何言われるかわかりませんもん」  先輩はわずかに笑ったような気がしたが、表情が乏しすぎて汲み取れない。 「ちょっとアドバイスをいただきたくて。宣言するタイミングを測るきっかけみたいなものって、あります?」 「……雨宮、ちょっと」  会話途中に突然背中をつつかれて振り返る。そこには係長の虹川さんが眉間にしわを寄せて立っていた。わたしは虹川さんに半ば強引に廊下まで連れていかれた。
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