2人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「なんですか。雲井さんと話してる途中だったのに」
「だからだよ。お前、治りかけた傷口をこじ開けるような真似するなよな」
「どういうことです」
「……そうか、お前は日が浅いから知らないのか」
虹川さんは周りに人がいないか確認した上で、そっとわたしに耳打ちした。
「去年、雲井はしくじったんだよ。梅雨入り宣言したものの、一週間以上雨が降らなくてな。元々口数の少ない男だから、職場の誰も触れられずにいたんだが」
虹川さんが何を言わんとしているのか、なんとなく察しがついてきた。
「お前だったら、〝梅雨入り早かったんじゃね?〟で済むが、真面目な雲井の場合はそうもいかんだろ。完全に腫れ物扱いみたいになってな。あれは地獄だったぞ。しばらく職場が凍り付いていたからな」
想像してみたが、思わずわたしまで身震いしてしまう。
「で、結局雨は降ったんですか」
「一応、宣言十日後にやっと小雨が降ったが、そこからまた一週間快晴だ」
「うわあ」
そんな事態になったら、わたしは当面SNS関連は覗けなくなるだろう。何を言われるかわかったものではない。
「あの、虹川さん。わたし、どうしたらいいですかね」
「別に、お前は深刻に考えなくていいだろ。後で訂正すればいいんだし」
「わたしだけ扱いが雑じゃないですか」
「前の係、文句言って抜けてきたんだろ? お前は雲井と違って、鋼のハートの持ち主だと踏んでるけど」
「失礼なっ。か弱い乙女を捕まえて、なんちゅう暴言を」
「いや、もう、その反応でわかるわ」
最初のコメントを投稿しよう!