宣言屋さん

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 結局虹川さんは特にアドバイスをくれるわけでもなく、わたしはデスクに戻った。  ネットで去年の記録を調べてみると、梅雨入りと梅雨明け時期は九月ごろに改めて宣言しなおされていた。まあ、人間がやることだし、間違いは誰にでもある。そもそも明確な基準を作っていない上が悪いのだ。わたしは末端のワーカーに過ぎない。  桜の開花と違って、雨が降りやすいですよ、という程度の宣言だ。降らなかったからといって、目くじらを立てる程のことはあるまい。  わたしは例年の宣言時期を集計ソフトに取り込んで、その平均値の日に宣言を出すことにした。そう、その時のわたしは余りに無知すぎたのだ。 「……はい、大変申し訳ありません。まさか、そんなところに影響があろうとは」  宣言後、わたしは受話器に向かってペコペコ頭を下げていた。梅雨入りなのに雨が降らないという苦情だ。これは結構切実な問題をはらんでいて、まとまった雨が降るか降らないかは、農産物の生育に大きな影響を与えるのだ。わたしが雨量をコントロールしているわけではないのだが、宣言を出したのに雨が全く降らなけれは、特に農業関連の方は不安になっても仕方ない。  これならまだ開花宣言の方が百倍気楽だった。なぜわたしが農家の方々の生活を背負わねばならんのだ。 『君ね、宣言したからにはきっちり雨を降らせてくれないと困るよ』 「その辺りは担当外になりまして……」 『たらい回しにするつもりかね』 「いえ、担当はかなり(うえ)の者……というか、人じゃないというか」  わたしは電話応対しながら、雨が降ることと、改めて転属を天に願った。
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