宣言屋さん

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 わたしは去年まで桜開花宣言係に所属していた。この係の仕事は、毎年桜が咲く季節に、桜が開花したかどうかを宣言すること。以上である。  そんなバカなと思われるだろうが、国が作ったれっきとした公務なのだ。そして、宣言するかを判断する方法は、特定の桜の木に、ある程度花が開いたかという微妙にあやふやな基準。  係には係長も含めて三人いたが、宣言担当になった先輩は、少々せっかちな人だった。桜の花が少し咲きそうになった段階で、早々と宣言を出してしまったのだ。  一度宣言してしまったら、誰が何と言おうと開花したことになるのだ。早く出し過ぎた開花宣言は、若干の混乱をもたらした。  宣言を知って意気揚々と花見に出かけた人々から苦情の電話が鳴りやまなくなったのだ。 「おたくのところでは、枝を肴に酒を飲むのかね」 「今年の桜は、はかなすぎやしないか。花が見えやしない」  正直なところ、人々の花見のために宣言を出しているわけではないのだが、そんなことを言えば火に油だ。何も知らない世間のいい加減さと身勝手さに辟易して、わたしは転属を願い出た。
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