はじまりの虹

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「『旋風の矢』! 続けて、エウゲンニャお姉様に『風の癒し』!」  ヴィオレッタ姫は龍に攻撃しながら、長女姫を癒す。長女姫の周辺が輝いて、龍から受けた傷が瞬時に癒えていく。すでに、龍と戦い始めて、二十分が経っていた。まだ、有効な打撃は加えられていない。 「だめね……。これだけやっても、鱗を破壊しただけだわ。まだ、本体には……」  エウゲンニャの嘆きを聞いて、本が好きで「図書室の姫君」と呼ばれたグラシーナは考え込む。 「雨が降ってくれれば……」 「何を言ってるの。あの龍は、水の眷属なのよ。雨なんて、あちらの力を増すだけじゃない」 「熱膨張を使うんです。龍の鱗は、かなり傷ついている。もし、私が雨で龍の体を濡らした後に、焔魔法で体の一部を焼いたら、鱗が裂けるでしょう。そうすれば、有効な打撃を内部に与えられます」  エウゲンニャは目を見張った。  今まで、龍を倒すときには、力業ばかり使っていた。  幼いころに、この城へとやってきたエウゲンニャは、それくらいしか戦い方を知らなかったのだ。ヴィオレッタも楽器は好きだが、本や戦いには詳しくない。 「頼もしいわね、グラシャ」  ヴィオレッタ姫が、そう言って三女姫を褒める。  だが、グラシーナは、きょとんとしていた。これくらいのこと、本には沢山書いてある。誰でも思いつく、とあまりにも本が好きすぎた少女は思ったのだ。 「いいわ。グラシーナ……。やってみましょう!」  エウゲンニャが臨戦態勢に入る。 「でも、グラシーナ。失敗しても泣かないでよ!」 「はい。お姉様!」  グラシーナは手のひらに魔力を溜めていく。元素魔法が得意なのは、それがグラシーナに合っていたからではない。四女と五女の双子姫が生まれた後に、三女姫の養育がおざなりになった結果、元素魔法を使えるものくらいしか従者で残らなかったのだ。  この三姉妹は親に捨てられた、という同じ寂しさを知っている。 「『雷雨召喚』! 水を司る精霊たちよ。我が声にこたえたまえ!」  グラシーナが呪文を唱えると、大ぶりの雨が降り始めた。  騎士たちが悲鳴を上げながら森に避難し、防御魔法をかけ直す。  一部の騎士は、エウゲンニャやヴィオレッタに傘を差しだしつつ、攻撃補助魔法を重ねがけした。  龍は、水を浴びて、息を吹き返したように雄たけびをあげた。勝利を確信した声だった。  エウゲンニャの背筋に冷たいものが走る。もしここで死んだら……。  だが、そこまで考えて、首を振った。今は、グラシーナを信じるべきだ、と。 「次よ! 『火閻召喚』! 火を司る精霊たちよ……。我が名をもって命ずる。愚かな龍に鉄槌を!」  そして、グラシーナは龍の全身に焔を送った。だが、まだ龍は倒れない。
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