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あれから、一体どれぐらいの時が経ったんだろう。
きっかけは、雨の日の帰り道のことだった。
授業を終えて学校を出たら雨が降っていて……だから、朝にお母さんから渡された赤い傘をさしたんだ。
なんてことはない、いつもの帰り道のはずだった。
そんな中、知らないおじさんに声を掛けられた。
「駅までの道がわからないから教え得てくれないかな?」
そんな事を言われたっけ。
いきなりのことに戸惑っていたら、おじさんは私の腕を掴んで無理やり車の中に引っ張り込んだんだ。
思わず手放してしまった赤い傘が、なぜだかずっと記憶に残ってる。
ええと……それから……どうなったんだっけ。
気が付いた時には、私は暗くて狭い場所に閉じ込められていた。
「ここから出して」
「おうちに帰して」
「お父さんとお母さんに会いたい」
何度もお願いしたけど、聞いてもらえなかった。
いつも通りの帰り道だったはずなのに。
家に帰ったら、お母さんが「おかえり」って言ってくれるはずだったのに。
夜には、お父さんが帰ってきて三人で晩ごはんを食べるはずだったのに。
次の日には、学校で友達と新作のゲームの話で盛り上がるはずだったのに。
それなのに、私は今、誰も知らない場所に閉じ込められて出られないでいる。
私を閉じ込めたおじさんも、どこかに行ったきりだ。
それでも、私は希望を捨てなかった。
いつか必ずお父さんとお母さんの元に帰れることを信じて、その時を待ち続けた。
そうして、気付いたんだ。
雨が降るたびに、少しずつだけど視界が開かれていくことに。
暗くて狭いこの場所に、光がもたらされつつあることに。
ああ、今日は特別な大雨が降り注いでいるみたい。
すごい、すごい!
視界がどんどん明るくなる。
狭くてどうしようもなかった空間が一気に開かれる。
今度こそ、家族の元に帰ることができる。
もう少し、あと少し。
雨よ降れ、もっと降れ。
どうかお願い。私をここから出して!
『ニュースです。先日の大雨によって発生した土砂崩れの中から、白骨化した遺体が発見されました。DNA鑑定などから、6年前に行方不明になったAさん(当時10歳)と見られ、
殺人及び死体遺棄事件として警察は捜査を進めています。続いてのニュースは……』
(終)
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