『雨女』の葛藤

2/8
前へ
/8ページ
次へ
「……ほかに好きな人でもできた?」  すらりと背が高く、精悍な顔つきの誠人は、結構女性にモテる。 「そんなんじゃないよ」  誠人はあきれたように笑って否定した。 「じゃあ、どうして?」 「なんていうかさ、聞いちゃったんだよ。沙紀、おまえの正体」 「正体? なにそれ」 「おまえ、『雨女』なんだろ?」  沙紀の髪から雨水がぽたんぽたんと落ちる。沙紀は玄関に立ったまま、いたって真面目な誠人の顔をポカンとした表情で見た。  沙紀はどうしてバレてしまったのかと考えていた。地元の友達はこの辺にはいないはずだ。いやでも、いまの世の中、いつどこでどうつながるかなんて、わからない。  実は、沙紀は幼い頃から『雨女』として有名だった。  幼稚園の頃も、親と出かけるときはわりと雨にあたることが多かった。   小学生になると、学校としての行事が多くなり、そのたびに雨が降るので、いつの間にか「沙紀ちゃんは雨女」とからかわれるようになった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加