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玄関のドアが開いて、ずぶ濡れの沙紀が勢いよく入ってきた。
「ただいまー! 濡れちゃったぁ。ごめん、タオルとって」
玄関を入ってすぐの狭い洋室の真ん中に立ち、金属バットで素振りをしていた誠人は、あきれたような顔で沙紀を見た。さっきまで部屋の窓を激しく打ちつけていた雨が、だんだん弱くなってきている。誠人はバットの先を床につけて、ため息をついた。
立ったまま動こうとせず、ただ自分を見てくる誠人に、沙紀はよくわからないながらも笑顔を見せた。
誠人は視線を逸らして、沙紀に聞いた。
「今日は外で撮影じゃなかった?」
「そうそう。撮影現場についた途端、雨が降りだして。結構大変だったよ」
服についた水滴を手で払いながら、笑って答える沙紀。
誠人は神妙な顔つきで、しかし思い切ったように切り出した。
「別れてくれ」
「……は? なんて?」
「おれと、別れてほしい」
「ちょ、ちょっと待ってよ。なに、突然。どういうこと?」
来月で、同棲して一年が経つ。沙紀としては、お互い仕事ですれ違うことも多いが、いい感じに助け合って楽しく生活できていると思っていた。
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