花瓶の花

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花瓶の花

「よし。今日も綺麗」 朝一番にやることは、顔を洗うでも歯を磨くでもなく、花の水換えだった。 濃いオレンジ色をしたゼラニウムを見て、湊は微笑んだ。 この調子でいけば、一週間は綺麗に咲いてくれるだろう、なんて思いながら洗面台へと向かった。 小さなアパートの、小さな部屋。 壁が薄いため、隣の部屋のテレビの音はよく聞こえてくる。 けれど、隣の部屋のテレビの音はいつもアニメの音で、湊は密かに聞こえてくることを楽しみにしていた。 「今日は、テレビの音聞こえてこないな」 朝はいつも、テレビから流れるアニメの音と、忙しなく動き回る足音が聞こえているのだが、その日は聞こえなかった。 不思議に思いながらも、湊は顔を洗った。 そして、歯ブラシに手を伸ばした瞬間。 ドンドンドンドンドン! 扉の叩く音が聞こえてきた。
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