雨降る午後二時、小さなカフェで

1/11
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
今日に限って折り畳み傘を忘れた。 空港線沿線にある閑静な住宅街を全速力で走り抜ける。 ふと、レトロな雰囲気のカフェが目に入り、私は慌てて軒下へ滑り込んだ。 あ~あ、スーツの下に着たインナーが透けてしまった。これでは電車にも乗れやしない。しばらくここで雨宿りでもしていこうかな。 扉の脇の小さな窓から店内を覗いてみる。 店内が暗いのか窓ガラスで反射して中がよく見えない。扉に手をかけたが、残念。鍵がかかっていた。 軒下から空を仰いでみる。 止みそうにない雲行き。胸元だけでも乾かそうと思い、鞄からハンカチを取り出してパタパタと叩いた。 腕時計に目をやると午後二時ジャスト。 スマホを取り出す。業務報告だけでもしておこう。私は日報アプリを起動した。 「あの、もし、よろしければ雨宿りしていきませんか?」 突然、カフェの扉が開いて、白いエプロンを着けた同年代位の女性が顔を覗かせた。 有難いお声かけではあるがここまで濡れていては店内を汚してしまう。私は丁重にお断りをすることにした。 「ご厚意感謝します。ですが、ここまで濡れていては店内を汚してしまいます。軒下だけ貸して頂ければ結構です」 私の言葉に女性の目が見開いた。 えっ?何か変な事を口走っただろうか?私は今さっき口にした言葉を頭の中で反芻する。 うん、何もおかしな所はないと思う。もしや、雨音で聞こえなかったのかな?あっ!それともメイクが酷いことになってる? 困惑する私に彼女はゆっくりと微笑みを向けた。 「ご遠慮なさらずに。温かいミルク珈琲でもどうですか?」 ミルク珈琲?カフェオレの事?聞きなれない言葉に興味が湧いて、吸い込まれる様に店内に入った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!