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ダークブラウンの木目調で統一された店内はコの字型のカウンター席と中央に一枚板のどっしりとしたテーブル席。最奥の窓辺に二人掛けの丸テーブルがあった。
明かりはランプのみ。昼間でも雨の日は薄暗く感じる訳だ。
「奥のお席にどうぞ」
静かな物腰で案内される。
店内には既に三人の先客がいた。あれ?さっきまで鍵がかかっていたのにどこから入ったんだろう?
別の入口があるのかと思いキョロキョロと辺りを見回しているとすっとタオルを差し出された。
「どうぞ、使って下さい。今、温かいミルク珈琲を入れますね」
お礼を言いつつ案内された最奥の丸テーブルの椅子に荷物を置いてタオルで身体を拭く。どこか懐かしい花の香がした。
「どうぞ」
ミルク珈琲は濃厚でカフェオレともカフェラテとも少し違う気がした。
ほっと一息ついて店内を観察してみる。
カウンターやテーブルはオーク材らしきアンティーク、ランプは・・・・と、ガレだ。本物?まじまじと丸テーブルのランプを眺める。
カップはマイセンの青い双剣。これもアンティーク。豪華と言うより品格が漂う店内だった。
カウンター奥の壁面にカップ類が綺麗に並べられ、片隅に洋書だろうか?重厚な表紙の書物が数冊。セピア色の写真が収められたフォトフレーム。
う~ん、ここからだと写真はよく見えないが風景と人物かな?
落ち着いた雰囲気、物音がしない静けさに、どこか時間が止まっている様に感じた。
「雨、止みそうですね」
気付くと先ほどの女性が窓から空を眺めていた。
「雨降りのこの時間帯だけ開店しています」
彼女は見上げる私に懐かしむ様な眼を向けそう言った。
「えっ?雨降りだけですか?」
時計を見ると午後四時前。二時間近くも経っていたことに驚く。
「そろそろ閉店になります」
彼女は少し寂しそうに閉店を告げた。
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