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「それでね、雨降りの日だけ午後二時から四時までの二時間しか開店しないんだって。でも素敵なカフェだった。カフェで二時間も独りで過ごすことなんてまずないから自分でも驚いちゃった」
スマホの先で出勤前の身支度を整えつつ「珍しいね」と相槌を打つ彼がほほ笑んだ。
日本とNYに離れて三年。時差13時間。
出来る限りお互いの日常を共有しているつもりでいても距離を埋めることは難しい。
重いと思われたくないから「会いたい」の言葉は封印している。
スマホ越しの彼は最近少し痩せた。ちゃんと食べているの?身体を休めているの?そもそも休みは取れているの?聞きたい事は山ほどあるけど言わないし、聞かないを決め込んでいる。
物わかりのいい彼女でいたいと思っているから業務報告の様な話題に彼の興味を引きそうな内容を織り交ぜて。
どんなに会いたくても、どんなに胸が苦しくても彼に悟られない様に満面の笑顔で「いってらっしゃい」を告げてスマホを置く。これが日課の三年と少し。
窓の外へ目をやると一度は上がった雨がまた降りだしていた。
明日も雨降るかな?明日の降水確率は10%。何となく惹かれたあのカフェにもう一度行ってみたいと思った。
「明日も雨降らないかな」
何の気なしに口をついて出た言葉に妙に寂しさを感じた。
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