雨降る午後二時、小さなカフェで

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住宅メーカーのリフォーム部門に籍を置いている。 3件のリフォーム依頼が例のカフェ周辺だった。打合せと立会等が一、二ヵ月は続く。 住宅街と言う事もあり近場に飲食店もないから時間調整をするにもいい場所を見つけたと思っていた。お天気次第だけど。 丁度、梅雨時だったから思いの外、通う事ができた。 午後二時前にカフェの軒下で待機していると彼女が「いらっしゃいませ」と扉を開けてくれる。まるで昔馴染みの様に彼女は接してくれた。 聞き上手の彼女は私の話にゆったりと微笑み相づちを打つ。今まで私の周りにはいなかったタイプの彼女に私は雨降りを心待ちにするようになっていた。 人は相手に興味を抱くとその人の言動に自然に目がいく様になる。彼女は私の話を聞きながら時折、軒下の方を寂しそうに眺めている。 その仕草が気になっていた。 店内には私の他に常連と思しき三人の先客がいた。 今時珍しい学ランの学生、着物の姿の若い女性、白いカッターシャツの男性の三人。いつも決まった席でじっと黙って座っている。 ある時、学ランの学生の姿がなかった。同じ時間に同じ場所で何度も会うと話した事もないのに知り合いの様な気になる。 彼女に聞くと「ああ、あの方は無事に旅立たれたの」と何とも言えない微笑みを浮かべた。 「会いたいと思った時に、会える場所に会いたい方がいて、会いに行ける。この上ない幸せよね」 彼女が呟いた言葉にドキリとした。私の心の内を覗かれた様に感じたから。彼に会いたい、会おうと思えば会いに行ける。でも、私は会いには行かない。 自分の気持ちに蓋をして、半ば意地になっているのを咎められた気がして彼女の顔を見上げた。 どうやら私に向けられた言葉ではない様で、彼女はあの寂しそうな目を軒下に向けていた。 私は思い切って聞いてみる事にした。 「あの軒下になにかあるの?」 彼女は驚いた顔をして「ふふふ」と小さく笑った。
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