モノクロの雨

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「それにしても、不思議な雨ですよねえ。どういう原理なんだろう」  わたしは空を見上げた。重い雲が立ち込めた、暗い空。雨粒が降ってくるのが、なんだかゆっくりと見えた。落ちてきた一粒が、わたしの目に落ちた。  すっと、その瞬間、自分の心が静かになった。  ああ、そうか。心からも色を消していくのだ、この雨は。モノクロで、つまらない心にしていく。それもいいかもしれない。もう、泣かずに済む。  これでいい。これで、いい。  そう思ったとき、後ろから傘が差し出された。 「捨てていいものですか、それは」  彼はじっとわたしを見つめてくる。 「……いいですよ」 「では、これもいらないですね」  いつのまにか、彼の手の中にはネックレスがあった。金色のリボンに、真ん中に桃色の石がはめ込まれたそのネックレスを見て、わたしははっとして首元を触った。ひんやりとした感触がない。いつのまに盗られたのだろう。 「返してください」 「でもいらないんでしょう?」 「いらないですけど……、でもそれは、もらったものだから」  去年のお祭りで、幼なじみが買ってくれたのだ。なんてことはない。安物だし、射的の景品だった。遊びのついでに、手に入れたもの。だからべつに、いらないのだけど。 「いらないなら、いいでしょう?」  にこりと笑ってその男は、突然、走り出した。 「えええっ、ちょっと! 返してくださいってば!」  わたしも慌てて駆け出した。傘をさした彼より、手ぶらなわたしのほうが走りやすいはず。それなのに、どうにも追いつけない。それどころか、相手は余裕の顔なのに、わたしのほうが必死に息を乱していた。 「返してって言ってるじゃないですか!」
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