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「わたしが?」
いったいなにを言っているんだと目を見開いたわたしに、彼は言う。
「こんな不思議な雨が降っているんですから、なにがあっても、あり得ないなんてことは言えないでしょう」
それは、そうかもしれないけれど。
「このてるてる坊主、作りましたね?」
そう言いながら、彼はどこからか、てるてる坊主を取り出した。けれどそれは、黒く染まっていた。わたしは、白いティッシュで作ったのに。眉をひそめる。
「たしかに、てるてる坊主は作りましたけど、そんな怖そうなのは作ってません」
「いいえ、これはあなたが作ったものです。悪いモノがね、憑いてしまったみたいですよ。それでこんな雨が降っているんです」
「悪いモノ?」
男の言うことはさっぱりわからない。でも彼は「不思議なことが起こるくらい、今さらでしょう? こんな雨が降っているんだから」と軽く言ってのける。それを言われると、こちらも黙るしかない。
「雨乞いするなら、こんなヘンテコな悪いモノではなくて、はじめから神社にしておけばよかったんです」
「わたし、悪いモノに、お願いした記憶はないんですけど……」
思わず反論したが、男は気に留めない。
「さて、あなたが降らせている雨です。あなたが願えば、やませることもできるはず」
男の目が、わたしをじっと見る。わたしは汗がにじんだ手をぎゅっと握った。
「この雨、まだ降らせていたいですか?」
わたしは、うつむいて考えた。
世界から色を失わせる雨。わたしの感情も消してくれる雨。お祭りを中止にしてくれる雨。それはたしかに、わたしが望んだものだった。
恋人と楽しそうにお祭りに行く幼なじみなんて、見たくない。笑い合うふたりを見たくない。華やかな風景は、すべて色褪せてしまえばいい、と――。
だけど。わたしはネックレスを握る。失いたくないものも、たしかにあったはずなのだ。
彼のことを好きだと思った気持ちは、悲しくて捨ててしまいたいけれど、わたしの大切な時間だった。あの時間も想い出も、失っていいのだろうか。この色を、消してしまいたいわけじゃなかったはずだ。
「いらないものを、あそこまで必死になって取り返そうとはしないでしょう」
男はそう言った。わたしは、ゆっくりとうなずく。それで満足したのか、男はぱちんと手を鳴らした。
「では、色を取り戻しましょうか」
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