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わたしは街を歩く。
道路標識は白に赤と、派手に注意喚起をしている。おもちゃ屋の屋根は赤、青、黄色、緑とさまざまな色の瓦で子どもを誘う。重くたちこめていた雲はどこかに消え、青い空が頭の上をおおっていた。
世界には色があふれている。モノクロより、いまのほうがずっと素敵に見えた。
色とりどりの雨を降らせた男は、いつのまにか、いなくなっていた。そんな魔法みたいなことがと驚いたけれど、まあ、そういうこともあるのかもしれない。あんな雨が降ったくらいなのだから、なにが起きても不思議じゃないだろう。
「桃ー、大丈夫か!」
遠くから、幼なじみが駆けてくるのが見えた。
「急に色のついた雨が降るから、もう俺、何が何だか!」
すっかり色に染まった世界で、わたしは彼を見つめる。首元で揺れるネックレスを手で握って、ちょっとだけ大きく息を吸い込んだ。色づいた心は苦しいけれど、なかったことにはしたくない。これも大事な、わたしの想いだ。
「大丈夫ーっ!」
手を空に掲げて、ぶんぶんと大きく手を振った。にっと笑うと、彼はきょとんとしてから笑って、「帰るか」と歩き出す。わたしも、すっかりただの透明な水たまりになった雨たちを踏んづけて、彼の横に並んだ。
ふたりで家まで帰る道すがら、神社の脇を通った。一瞬、石段の上に、あの男の姿が見えた気がしたけれど、瞬きするまにふっとかき消えていた。まあ、そういうこともあるかと思う。
雨乞いするなら、神社に。そう心にとどめておくだけでいいかと判断して、わたしは上機嫌で鼻歌を歌った。踏み出すたびに、雨粒がきらりと跳ねる。
あめあめ ふれふれ かあさんが
じゃのめで おむかえ うれしいな
ピッチピッチ チャップチャップ
ランランラン
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