第一章 令嬢秘書の正体

6/26
前へ
/282ページ
次へ
部屋の前で鞄の中を探るがいくら探しても鍵が見つからない。 どこかで落とした? どうしよう。 「(さや)ねぇ、朝帰りかよ」 焦っていたら中からドアが開いた。 顔を出した一番上の弟、健太(けんた)が呆れ気味にため息を落とす。 健太には……というか、実家には合い鍵を渡してある。 「あっ、えっと、ほら、姉ちゃんだって一応、大人だしぃ?」 言い訳をしながら、十も年下の弟相手に語尾が不自然に裏返る。 「まあ、いいけどよ。 それにそのほうが返って安心するし」 高校生の弟に朝帰りを咎められるどころか安心されるって、私ってどういう姉なんだ? 部屋の中では一番下の妹がすやすやと眠っており、横ではその上の弟が絵を描いていた。 「悪いけど清ねぇ、(のぞみ)美妃(みき)、預かっててくれない? 母さん、風邪気味みたいだから休ませたいし」 「了解」 健太がインスタントコーヒーを入れて渡してくれる。 本当によくできた弟だ。 義母の真由(まゆ)さんは身体があまり強くなく、季節の変わり目などはよく体調を崩していた。
/282ページ

最初のコメントを投稿しよう!

684人が本棚に入れています
本棚に追加