第一章 令嬢秘書の正体

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ここ二、三日、急に温かくなったし、身体がついていっていないのだろう。 「健太はどうするの?」 流しに寄りかかり、渡されたコーヒーを飲む。 「俺は学校行って作業してくる」 ちらっと健太が視線を向けた先には、大きな袋が置いてあった。 「いつもすまないねぇ」 「それは言わない約束だろ」 ふざけたら、笑いながらバンバン健太が背中を叩いてくる。 健太の特技は服作りで、いつも安く古着を仕入れては私たちに服を作ってくれた。 ちなみにこのスーツも健太が古着を改造してくれたものだ。 「(たくみ)(まこと)は?」 巧は健太の下の弟。 真はさらにその下の弟だ。 「巧は図書館で勉強するって。 真は学童のあと、友達とサッカーするって張り切ってたな」 「なら、いいけど。 ……これでお昼、なんか食べな」 財布から千円札を引き抜き、健太へ渡す。 けれどそれは、押し返された。 「清ねぇ、いつも言ってるだろ? 毎月入れてくれるお金だけで十分だって。 清ねぇだってカツカツなの、わかってるんだからさ」
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