第一章 令嬢秘書の正体

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この春に高校生になったばかりの弟に気を遣わせてしまい、返す言葉がない。 給料は最低限の生活費を残し、あとは実家の生活費と健太たちの将来への貯蓄へ回していた。 「……いいから、もらって。 健太だってたまには、友達とハンバーガー食べたりしたいでしょ?」 それでも無理矢理、健太にお金を握らせる。 実家が貧乏なのは父のせいだ。 父の特技は行方不明になることで、ほとんど家に帰ってこない。 当然、お金だって滅多に入れてくれなかった。 それは私の母の生前からそうで、なのに真由さんとの結婚を阻止できなかった自分を、ずっと責めていた。 「清ねぇ……。 わかった、もらっとく」 お金を受け取り、健太が笑ってくれてほっとした。 健太が出ていき、美妃の様子を見てから手早くシャワーを浴びた。 私には母違いの五人の弟妹がいる。 一番上がさっきの健太、高校生になったばかり。 その下が巧で同じく高校一年生。 同じ学年といっても双子ではなく、健太が四月生まれで巧が三月生まれだから。 その下で真ん中が小学五年の真。 さらにその下の望は五歳で、唯一の妹である美妃はまだ生後五ヶ月だ。
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