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【1】
彼と出会ったのは、私がちょうど34人目の彼氏を殺した帰り道のことだった。
別に浮気はしていなかったし、殺す気は全然無かったけど、私に黙って合コンに参加したと言うから殺した。
優しい彼の事だ、友人に誘われて仕方なくいったのかもしれないけれど、私の事を思えば参加しようなんて思わない筈だ。
それなのに、私に一言も告げず、勝手に参加するのはどういう事だろう?
問い詰めると、苛立った様子で「面倒臭いんだよお前」と逆ギレしてきた。
だから殺した。
私に合わせられない時点で、殺されても仕方がない。
死体はいつもの公園に遺棄した。
私は泣きながら、そして土砂降りの雨にうたれながら、道を歩いた。
殺す度に苛まれる虚無感と、ちょっとの罪悪感を引きずって。
──また殺しちゃった。なんで上手くいかないんだろう?
そう思いながら私は、彼との出会いから何までを消し去るように、その場を駆け出した。
早く帰って、早く寝よう。そして早く彼の事なんか忘れよう。これまで殺して来た、33人の元カレと同じように。
そんな想いの中、前も見ずに走っていると、傘を指す一人の男性とぶつかり、その場で転んでしまう。
「痛っ……!」
「あっ、すみません。大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です。此方こそすみません、ぶつかってしまって……」
私はぶつかった人に頭を下げ、早々にその場から立ち去ろうとする。
泣いてる所を見られたくないし、思いっきり転んで少し恥ずかしかった。
それに今、誰にも会いたくないし、話したくもなかった私は、その場から逃げ出すように、彼の隣を横切る。
「待って。君、紫 綾女さん、だよね? 何かあったの? 泣いてるみたいだけど」
「え……?」
名前を呼ばれて、思わず振り向く。
心配そうな瞳で此方を覗き込んでくる彼の正体に気付いたのは、その時だった。
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