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中学校の担任教師郡山先生が育児休暇のために一ヶ月学校を休むことになった。育休は法律では一年間取得できるみたいだけど、大人の事情で一ヶ月のみになったらしい。それでも、僕らは皆、先生との別れを悲しんだ……わけがない!
郡山先生はもじゃもじゃに毛深くて筋肉ムキムキ。よく日焼けした顔にサングラスを掛け、陰で「ゴリ」と生徒たちに呼ばれている。ヤクザみたいな雰囲気のとても怖い中年の男の先生だ。英語教師なのに、ちっともフレンドリーな雰囲気ではなく、礼儀や規律にやたらうるさい。当然、クラスの生徒たちからは煙たがられている。
「ガキの頃、俺は動物園の飼育係だけにはなりたくなかったんだ。だから、お前ら、ケモノじみた行動だけはするなよ!」
どっちがケモノだよっ! と僕らは内心ツッコミを入れた。
そんな郡山先生が育休で休むことがわかったときには、当然皆小躍りして喜んだ。
「遠慮しないでアフリカのジャングルに移住して子育てすれば良いのに!」
クラスのムードメーカーの平野くんのジョークは大うけだった。
皆が喜んだ理由はもう一つある。郡山先生の不在時に担任を務める副担任が雛川先生だからだ。
雛川先生は一言で言うと、先生らしくない先生だ。引っ込み思案な新任の若い女性教師で生徒が眼の前で悪ふざけをしていても、注意ができずにおろおろしている。
担当科目は理科。いかにもリケジョといった感じの黒縁メガネをかけている細面の真面目な先生だ。教え方はうまいと思う。皆からも授業はわかりやすいと評判だ。
けれども、生徒の興味を引きつけるための冗談とかが一切ない。きっと勉強がすごくできて、良い大学に行って、その流れで先生になった人なのだと思う。
だから、けして人気の先生というわけではない。お笑いタレントみたいに話が面白いもう一人の理科教師の星田先生の方がずっと人気があって、雛川先生が担当のクラスの生徒たちは陰で文句を言っている。
だけど、雛川先生はそういう気が弱い先生だから、郡山先生がいない間、やりたい放題できるはずだ。クラスの皆はそれを狙っていた。
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