1 帰郷

4/8
前へ
/55ページ
次へ
 部屋を覗くと、ブルーノは意識を回復していた。枕に頭を付けたまま、ドアの方に顔を向けている。 「戻りました。お加減はいかがですか?」  サジュームがそばまで近づいてそっと囁くと、 「…つまらないことになった」 と呟いた。  先王と先々王の二代に渡って、アナトリア王国の国境を守ってきた屈強な戦士であるブルーノも、肉体の衰えにはかなわないようだった。 「まぁいい。病のお陰で息子が久々に顔を見せてくれた」 「何を言っているんです。病でなくとも、来ますとも」  ブルーノが柄でもないことを言うので、サジュームが驚いていると、 「お前こそ、顔色が悪い」 と視線をサジュームに向けてくる。 (この目は健在だな…)  サジュームは、なんでも見通しそうなその目から顔をそらした。 「どうだ、その後は…」 サジュームがブルーノに会えば、最初に問われることはアメリアのことだった。  「いくつか魔法使いの話は入ってきていますが、まだ確認がとれていません…」  サジュームはベッドに腰掛けると、視線を遠くに向けた。 「そうか…。お前も難儀だな」
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加