6 侵入

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 侵入当日は雨だった。冷たい雨は、アメリアに近づこうとするサジュームを妨害しているように思えた。  しかし雨音がこちらの気配を消してくれる。サジュームは気を取り直し、無事に行って帰ること、導師に会うこと、これらの目的を自分の中で確認すると音もなく国立薬事研究所の中に転移した。  サジュームはあらかじめ下見をした際に、薬草栽培の畑とは別にこんもりと木立の茂ったエリアがあることに気が付いていた。何かの用途があるわけでもなく、ただ樹木が繁るに任せたような森が敷地の一角にあった。  利用されておらず放置されている場所かと思えば、定期的に警備兵がその周辺を回ってくるのである。  その森をまず偵察するため、木立の中に入った。  体を低くして周囲を観察してみる。なんの変哲もない雑木林に見えたが、森の中心辺りの景色に違和感を覚えた。濡れている様子が見られない場所があった。よく目を凝らすと、空間にゆがみが見えた。 (まさか…)  サジュームはゆっくり前進してゆき、歪んでいる空間に触れてみる。  弾かれるような感覚があった。  面としての空間のひずみをゆっくり点検して、魔法の継ぎ目を見つけると、慎重にその継ぎ目を解いて自分の体を滑り込ませた。  次の瞬間、眼前には、巨大なガラス製の温室が現れた。透明のガラスの壁を通して内部で植物が繁茂しているのが見えた。 (なんと…巨大なガラス板で囲った家で薬草を栽培しているのか?)  サジュームは、入口を見つけると雨に濡れそぼったコートを脱ぎ音をたてないように忍び込んだ。周りを警戒しながらゆっくりと温室の中を進むと、中央の広い石畳の場所に一人の年老いた女性が植木鉢の植物を覗いているのを見つけた。
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