氷の賢者の煩悶 前編

８ 報告

　サジュームが本を片手に書庫に入ると、本棚で入り組んだ隙間を通り抜けて、人目のつかない位置にある壁を引くと腰から下の位置に入口が現れる。さっと身をかがめて通り抜けると、すでにガイウスが到着していた。

「久しいな、サジューム」
とガイウスが声をかけた。

「長期の不在、不便をかけてすみません」
「いや、いい。リアのことは重要案件だからな」
　ガイウスは含みを持った言い方をした。
　実際のところ、アメリアの行方は2年たった今でもアナトリアの王宮内では関心事であった。

　まず、王宮の懸案事項として、王であるアークが婚姻相手の候補と面会を繰り返すも未だに相手を決めようとしないということがあり、その原因の一端はアメリアにあると思われているのだった。生きているのか死んでいるのかも分からない宙ぶらりんの状態から早く脱したいと考える臣下は多い。