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それからどれぐらい泣いていただろうか。時計を見ると朝起きた時間から一時間が過ぎていた。
「李実はね、昨日の夜中。確か、二時半ぐらいだったかしら?急に目が覚めたって外の風を浴びにベランダに出ていたの。それを後ろから父に押されて」
母は俺の涙が収まってきたのを察して話し出した。
そんなのってあっていいのかよ。
確かにここはマンションの七階の七百五号室。そのベランダから飛び降りてしまえば、死に至るのは確実だ。
「警察は?」
通報している人、誰もいないのか?
「まだなの。父が殺人をしたのは確かだけど、裁判が穏便に済むかどうか…」
どうやら母はあんな父のことだから警察を混乱させてしまう、そう思ったらしい。確かに父ならそういうことには成りかねない。でも
「母さん、俺達は被害者だよ。なのに加害者を心配してどうするのさ」
俺は意を決して母に言った。
「そうよね。ありがとう、李野」
そう言って母はリビングからスマホを持ってきて警察に電話をかけた。
その間に俺はベランダに行く。母の話からすればここに李実の遺体があるはず。そう思って下を覗いてみれば、間違いなく李実は寝間着のまま、遺体となって倒れていた。俺はその光景に言葉を失った。
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