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プロローグ
小五の夏。セミの鳴き声がけたたましくなっている夜に俺・千手李野は同い年の妹の李実が学校で虐められていることを知った。
俺とはクラスが違っていたから気づかないのも自分でもわからなくはない。でも、兄としては妹のいじめに言われるまで気づかなかったというのはみっともないことだ。今にも兄としてのプライドが崩れそう。
訳を聞くと、千代雪美っていう人が先に虐められていて、それを庇った結果だったらしい。
確かに李実は昔から正義感があってそういうことをしてもおかしくはない。
実際、李実が誰かを庇ったのは俺の中では数えきれないほどある。
例えば学校で起こった喧嘩とか誰かや俺が困ったときとか、容赦なく庇ってくる。いじめを庇うのは今回が初めてだけど。
そんな李実は俺からしたら羨ましい存在。
だから、いつからかわからないけど俺の中にも正義感が生まれてきた。これほどまでに優しい妹なんだから少しは助けてやらないとって。だから、俺は言った。
「辛かっただろ?これからは俺にすぐ言えよ。怒ることはないさ。ただ李実の不満を取り除きたいだ」
「お兄ちゃああん!」
そう言って李実は泣き叫んだ。李実が今年からかけているメガネには涙の水滴がついてくる。顔もぐしゃぐしゃにしていたからせっかくの顔が台無しだけど、よっぽど辛かったんだなって心の中で悟った。
俺はそんな李実の背中をさすっていた。
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