大丈夫、痛いのは……最初だけだよ

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 この時期になると嫌でも想い出す。思い出したくないことほど、人は忘れることが出来ない。  四つ葉のクローバー  幸せを呼ぶその葉は、嘗ては誰もがこぞってこの時期になると探しに行っていた。いったい何時それが流行ったのか、それを誰が流行らせたのか? 私はそれを知らないし、調べようなんて思わない。でもいつ頃から、誰もこの葉を探さなくなったのかは、私だけでなく……この国に住む人々皆が知っている。  四つ葉のクローバー  その葉はシロツメクサと言う植物の茎になる葉で、確率として一万分の一と、とても見つけるのが難しい葉だとされている。花ことばでなく、葉のことばで、「幸運」「約束」「私を想って」などの意味を持つ特別な草だ。  四つ葉のクローバー  かつて私には大切な友人がいた。黒羽結衣(クロバゆい)、彼女は両親の都合で引っ越す前に、私の友人でもある智子からその葉を()()()()の言葉とともにプレゼントされた。彼女はその葉を大切に愛読書に挟んでいた。そして彼女はそれを誰よりもとても大切にしていた。どれほど大切にしていたのかは、最期に電話で話した時にも聴いているし、今ではその事について誰もが知っている。私と友人の印象では若葉色の薄緑色のクローバー、でも世の中の人には黒色のクローバー。  四つ葉のクローバー 「そっちの学校はどう?」 「う~~ん、まだ分かんない」 「もうそろそろ友達とか出来ていい頃じゃん」 「うん、そうだよね。でも微妙かな~~」 「もう結衣大丈夫なの? そっちに引っ越してから、もうそろそろ一ヶ月経つじゃん!?」 「う……うん、大丈夫だよ。だって智子から貰ったお守りがあるもん」 「ああ」 「「四つ葉のクローバー」」 「ふふ。そうそうそれそれ。幸運の御守り持ってるからさ、きっと大丈夫だと思う」 「そっか、あっそろそろお風呂入らなくちゃ、ママに叱られちゃう。それじゃあ、またね結衣」 「うん、また……じゃあ……ね、〇〇」  四つ葉のクローバー  もう時期梅雨が始まる季節、その電話を最期に二度と生きた親友の声を聴く事はなかった。その代わり、彼女がこの世を去ってからSNSを通して彼女の声を聴く人々が増えた。いつ、それが届くのかは分からないけど、この時期になるとそれは訪れるのだ。でも、今日も私の携帯にはそれは届いてはいない。  16時28分。それは誰かに届く。それを友人が狙ったのかは分からない。皮肉なことにその時間は、彼女が亡くなった時間と重なっていた。悔しい、気付いてあげれんかった。電話の向こうの彼女の叫びを私は気付けんかった。なんが、なんが親友よ。彼女は本当は助けを呼んどったんに。なんで、気付かなかったん私。自殺するのを止めれんかった、でも今度こそ……。  四つ葉のクローバー  今では、もう皆がこの時期になるとその時間4時28分に恐怖する。スマホを手放す人も増えた。パソコンを開くのを止めた人も増えた。でも、どうしてもそれらを手放せない人はいるし、またそれに抵抗しようとする人もいる。残念ながら、抵抗した人で生きていたと言う声は聞いたことがない・・・・・・。  四つ葉のクローバー  この葉を何よりも信じ、誰よりも大切に持っていた彼女は、裏切られたのだ。彼女は一度も教えてくれんかったけど、転向先では虐めに遭っていた。もう、虐めの当事者もこの世にいないから文句を言いようにも言えないのだけども。その子は友人の振りして、彼女を売った。『いいバイトがあるの』良くある騙しの言葉。普通なら騙されないよって思うかもしれない。でも、それだけ結衣は素直な子だった。転向先で初めて友人が出来た、そんな些細なことでも大喜びするそんな子だ。それくらいに彼女はピュアな子だった。友人の振りをしていたAと結衣は、バイト先のお店に向かった。向かった先には知らない大人達が彼女を待ってるとは知らずに、ただ新しい友人と楽しくバイトを始めるものだと思っていたらしい。まあ、普通そう思う。  実際は、彼女はAに売られただけだった。  それでも、きっと助かると彼女は信じていた。だって鞄には四つ葉のクローバが有るのだから。誰かが助けてくれる。鋏で制服の胸の辺りを切られても。きっと誰かが来てくれる、スカートを脱がされ下着も鋏で切られても、彼女は助かると信じていた。動画を見た人のブログにはそう書かれていた。  カチャカチャ  ジ―――――――― 「大丈夫、痛いのは最初だけだよ」  何の保証もない適当な台詞を、何の罪もない彼女に男共は言う。何処で撮影されたのか? 誰がそれを面白半分で流したのかは分からない。でも、その映像はリアルAVとしてネット上で一時期流され、その手の人間の中で話題となった。本気で嫌がっているのに、男達のもので口という口を塞がれる少女の映像が一時流れていたのだ。本当に汚らわしい。しかし、あの事件が始まってからは、今は誰も見ようとしない。彼女の映像で抜こうなんて男は、この国には誰もいないのだ。いや、この世界には・・・・・・先日も海の向こうの人が原因不明の自殺をした。赤黒色のダイニングメッセージが床に書かれていた。  Not lucky clover anymore.(もう幸せの四葉のクローバーではない)  四つ葉のクローバー  男達は自分のものを全て彼女へと吐き出すと、彼女を町から少し離れた森へと捨てたのだという。これは懺悔じゃないが、この悲惨な事件に関わった一人の男が死ぬ間際にSNSへ投稿をしたもので発覚した。何処か暗い部屋の映像で、自分の行ったことを心から悔やんでいる様子だった。カメラ越しでガタガタ震える大人の男の姿が映り、両手をガタガタと揺らし、まるで子供のように目から鼻から垂れ流し、泣きじゃくっていた。映像が途切れる最期で誰もが絶句した。はっきりとした映像ではないが、後ろに制服を着た少女がぼぉーーと見ているのが見えたからだ。その翌日、その男は手首を切って自殺しているのを発見された。しかし、何処にも刃物らしきものは見つかっていない。  四つ葉のクローバー  〇イプをされた後、彼女は知らない森に捨てられた。まだ、その時は家に帰ろうとしていたのだと言う。このことは、彼女の最期のメッセージに残されていた。彼女は森から出ると、国道に出る。そこで偶然通りかかった、工場の男に助けを求めた。その男は結衣を車に乗せ、彼女の家へと向かった。始めは安心させるように助手席に座る彼女に男は話し掛けていたのだという。しかし、鋏で切られた時に出来た制服の隙間、そこから時折見え隠れするピンク色の膨らみに、その男は我慢が出来なかったのだ。男は彼女を家へ送る前に、途中で仕事場へ忘れ物を取りに行くと嘘をついた。それを結衣は素直なのか、信じていた。  四つ葉のクローバー  男は、誰も居ない工場へ到着すると、そのまま車は工場の倉庫へ入って行き、そしてエンジンを止めた。車を降りるかと思うと、急に男の態度は豹変した。さっきの男達と同じ眼をしていたので、流石に彼女は気付いたという。気付いたからといって何も出来ることはない。諦めたというわけでなく、男性に抵抗出来る力など十代の少女にはなかった。男は抵抗の少ない彼女を自分の性のはけ口として、欲が満たされるまで、何度も何度も彼女の中へと出した。  この話は、後々彼女にしたことに恐怖した男が警察署へ自首してきたことで発覚した。しかし、それは反省などでもなんでなく、彼女から逃げるために、彼は刑務所の檻へと自ら入ったのだ。そう、刑務所なら監視もいるし。携帯やモニターなどとは無縁になるとそう男は考えたのだ。しかし、集団レイプした男と同じで、その男も何故か刑務所からSNSで懺悔の投稿をした。その男の動画映像の終わりには、有るはずのない黒の四つ葉のクローバーが一瞬映って、映像が消えた。まるでサブリミナルのように……。  当然のことだが、彼女をレイプした残りの男達も生きてはいない。皆が、右手首を切って死んでいるのを発見されている。不可解なのは、何れも刃物らしき物が現場に残されて居なかった。でも、皆はもう知っている。  四つ葉のクローバー  信じていた、信じていたのに裏切られた。工場の男はレイプ後、彼女を拾った場所へ引き返すと、また彼女を森へと捨てたのだと言う。同じ森といっても、実際に下ろした場所が違っていた。車のエンジン音が砂煙の向こうへと消える。彼女はもう一度国道まで……しかし集団の男達にされたこと、助けを求めた叔父さんにされたことを思い出すと足が竦んだのだろう。  彼女は映像で語る、 「もう学校なんか行きたくないよ……」 「足元にドロドロとしたものが今も流れ落ちて気持ち悪い……」 「今日は安全日じゃないのに。きっときっと妊娠したかも……知らない男の人の子供を私は身籠るのかもしれない」  それだけは絶対イヤっ!?  いやいやいやいやいやいやいやいやいや  いやいやいやいやいやいやいやいやいや  いやいやいやいやいやいやいやいやいや  いやいやいやいやいやいやいやいやいや  いやいやいやいやいやいやいやいやいや  いやいやいやいやいやいやいやいやいや  いやいやいやいやいやいやいやいやいや  いやーーーーーーーーーーーーーーーー  彼女は自殺する前に、スマホの動画へ自分に起きたことを全て語った。だから、私達皆が彼女の不幸な事件を知っている。その映像内でそれを語ると、学生鞄から取り出したカッターナイフで、右の手首をゆっくりと切っていくのが見えた。そして、激しい雨粒のようにボタボタボタボタと何かが落ちる音が聞こえてくる。その音は彼女がカメラの有る方へ近付く度に徐々に徐々に大きくなり、まるで耳元へ響くようにけたたましく鳴り続ける。そして急に画面に彼女の悲しい両目のアップが映ると。  彼女はボソボソと枯れた声で最期にこう言うのだ。 5afeab2e-1769-461a-80de-c4531452f891 「大丈夫、痛いのは……最初だけだよ」  ザ――――――――――――――――――  ――――――――――――――――――――  ――――――――――――――――――――  ――――――――――――――――――――  ――――――――――――――――――――  ――――――――――――――――――――  彼女は死ぬ間際、この動画をSNSで投稿した。  そして、こういう映像程世の中はバズッた。    最初は皆が面白おかしくそれを拡散した。  それが……彼女の呪いだとは知らずに。  見知らぬお知らせがこの季節の時期だけ、毎日誰かに届くようになった。  もし当たりなら、あなたの携帯画面に()()()()()()()()()()が表示される。死ぬ間際に誰かが友人に送ったメッセージでこれが彼女の呪いだと言うことが発覚した。  受取った人間の前に、彼女が現れるのだと言う。  そして……。  あの事件からもう四年、今日も私の携帯にはそれは届いてはいない。  でも、きっといつかは…… 「大丈夫、痛いのは……最初だけだよ」
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