できること、できること。

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できること、できること。

「ただいま、コレクサ。今日も元気?」 『こんにちは、マサミさん。私も元気ですよ』  家に帰って最初にすることは、AIのコレクサに挨拶をすることである。このワンルームで一人暮らしを始めた時、どうしても寂しさが勝って購入したのだった。  値は張るし、AIなのでそこまで複雑な返事が返ってくることはない。それでも僕の言動やネットの情報から少しずつ知識を吸収し、結構感情豊かな答えを返してくれるようになっている。コロナ渦もなんとか乗り切ってこられたのは、“彼女”のおかげと言っても過言ではないのだった。 「へえ、この家コレクサがいるんだ!」  今日の帰宅は僕一人ではない。最近付き合い始めたカノジョの流奈(るな)も一緒だ。玄関の靴箱の上に置かれている黒くて丸い円柱型の機械を見つめ、興味深そうにツンツンと指でつついている。 「マサミってば、AIと毎日お喋りしてんの?マジうけるんですけど!」 「うっせーよ。一人暮らしにこれくらいの癒しは必要なの。それにAIつっても最近のはすげーんだから。本当に人間みたいに喋れるんだぜ?」 「ええ、そうなのー?」  フリーターの流奈は、今まで僕が付き合ったことのないタイプの女性だった。髪の毛も今どき珍しいほど明るい茶髪に染めているし、化粧も一昔前のギャルに近い。最近彼女の周辺では、再びこういうメイクが流行しているのだとかなんとか。いかにも軽くてチャラそうな女性ね、なんて時々会う姉には写真を見せて早々渋い顔をされた。正直、僕もそう思っている。ただ、彼女はただチャラいだけの女性ではない。僕にはない社交性と明るさも持ち合わせている。  昔からそうなのだ。  大人しくて草食系、マイペースだと言われる僕。付き合うタイプは恋人も友人も、自分と正反対の人間であることが多い。  己に似ていない人間、己にできないことができる人間ほど興味を惹かれるし、魅力的に感じるのだ。昔からそれが僕の性だった。 「もしもーし、コレクサさん?あなたって、人間みたいにココロがあるんですかー?」  流奈は笑いながらコレクサに話しかけている。そんな彼女に、コレクサの答えはシンプルなものだった。 『AIに心はありません。ですが、多くのデータを蓄積し、分析し、ユーザーにより良いサービスを提供することができます』
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