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AIが相手だと思うと、ちょっとした愚痴みたいな話やくだらない雑談、それこそ下ネタのような話に至るまで気軽にできるということらしい。
僕が料理を作っている間、洗濯をしている間、流奈はずっとコレクサとお喋りをしていたようだった。
「あんたさー心ないつったでしょー?じゃあ、ご主人さまへの忠誠心とかそういうのもないのー?」
『そもそもご主人様という認識がありません。私達の間にあるのは、AIとユーザーというシンプルな関係のみなのです。ただ、ユーザーの不利益になるようなことはしないというのが私たちのプログラムに刻まれています』
「不利益ねー。あたしそういうのよくわかんないや。つか、あんたって遊ぼうと思えば遊べるの?あたしがしりとりしたいって言ったらできんのー?」
『できますよ。やってみますか?』
「やるやるやるー」
――おま、どんだけ暇なんだ。AI相手にしりとりって。
どう見ても勝ち目のない勝負を仕掛けているようにしか見えないのだが、気のせいだろうか。キッチンでチャーハンを炒めながら、僕はコレクサと流奈のある意味非常に不毛な会話に呆れていたのだった。
しりとりという遊びほど知識量と記憶力が試されるものはなく、人間にとって不利なものもないのではない。オセロやチェスならAIに勝てる可能性もあるらしいが、単純な知識が試されるもので人間が、しかもお世辞にも頭が良いとは言えない流奈が勝てるとはとても思えない。
案の定暫くの後、玄関から流奈の悲鳴が木霊してきたのだった。
「いやああああああああああああやだああああああああああああああ!ル責めすんのマジやめてえええええええ!それ以上は、それ以上はどうしろっていうのよおおおおおおおおおお!うごおおおおおおおおおおおお!」
そこで、諦めないのが流奈である。
「もう一回、もう一回勝負なんだから!もう一回いいいい!」
『わかりました。もう一回ですね』
「今度こそ勝つわよ!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
――いやだから、無理だって。
とりあえず、もう少し落ち着いてきたら“ご飯ができましたよ”と声をかけることにしよう。
今日は流奈も、うちに泊まると言っている。夜にいちゃいちゃするためにも、あまり遅くならない時間に晩御飯はすませてしまいたいはずだ。とりあえず、先にお風呂を準備しておくか、と思う。なんというか、甲斐甲斐しい“奥さん”にでもなった気分だ。
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