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「ひ、いろ、せんぱっ……んんっ、……っんああっ!」
「うみ、大丈夫だよ。俺は、ずっとここにいるから。」
「あ、りがと……ござい……ます。……んあっ、……。」
やがて、大分薬も抜けきってきた頃、俺は体力が限界だったため、ゆっくりと深い眠りに落ちていく―。
目を閉じる寸前、緋彩先輩が愛おしいものをみるかのような瞳で俺を見つめてから、温かい手で、俺の頭をゆっくりと撫でてくれた。
俺は心地良さを感じながら、目を閉じて、眠りにつくのだった。
「……っ。」
頭の痛みで、目が覚める。
こめかみを抑えながら、ゆっくりと起き上がった。
いつの間にか、自分の着ていた服やベッドのシーツまでもが、全て取替えられていた。
眠っていた間に、緋彩先輩がやってくれたのかな?
う、申し訳なさと有難さでいっぱいだ。
頭痛を除けば、身体の調子はだいぶ元通りといった感じだった。
俺は、ベッドからそろりと降り立って、サイドテーブルの上にあるお水を一口、口に含む。
再びベッドの上に座って、ぼぅっと部屋を眺めた。
「……。」
緋彩先輩は、霧江達に見せられた俺の醜態を見て、やっぱり気持ち悪いって思ったんだよな?
俺と目が合った時の苦しそうな先輩の顔を思い出して、心がジクジクと痛む。
あの時、きっと俺は嫌われてしまったのだろう。
けれど。
けれど、もしも違ったら……?
先輩は、あの後も以前と変わらない態度で接してくれた。
俺が媚薬で苦しんでいた時、少しでも楽になれるように手助けしてくれた。
たぶん上着を脱いだ時に、背中の気持ち悪い傷もとっくに見られてしまっているだろう。
それなのに。
それなのに、緋彩先輩は俺が眠りに落ちる最後まで、優しかった。
勝手に淡い期待を抱いて、それが裏切られたり壊されたりすることなんて、物心ついた頃から何度も何度もあった。
だから、何事も過度な期待はしないよう感情を押さえ込んでいる。
……でも。
それでも、彼には、彼にだけは嫌われたくない。
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