第36話 困惑

5/6
前へ
/452ページ
次へ
「……聞きづらいなぁ。」 俺は、ぽつりと小さな声でそう呟き、後ろへ倒れ込んだ。 頭痛がひどくなってきて、憂鬱な気分になる。 あんなに楽しかった夏休みが、霧江達のせいで台無しだ。 緋彩先輩が助けてくれなかったら、あそこで俺は、奴らに壊されていたかもしれない。 もうあいつらには、二度と会いたくない。 結局、恐怖は最後の最後まで、消えなかった。 ……やっぱり俺は、何も変わっていないんじゃ……。 か弱い、守られてばかりの存在だ。 すぐに、以前のトラウマを思い出してしまう。 「うぅ、……駄目だ。もっと前向きに、ならなくちゃいけないのに。」 もっと、もっと頑張らないと。 立ち止まっている場合じゃない。 “あの人”と決着をつける覚悟だって、したはずなのに。 俺は、大丈夫、大丈夫、大丈夫と呪文のように何度も呟いて、自分自身に言い聞かせた。 ベッドの上に寝転がり、布団の中で身体を丸める。 頭が痛くて睡眠どころでは無かったけれど、心の中が不安定なせいで、今はじっと静かにしていたかった。 暫くすると、部屋の向こうから小さなノック音が聞こえてきた。 「うみっち~、起きてるかにゃあ~?」 ……緋彩先輩の声だ。 途端に、俺のもとへ来てくれた嬉しさと不安と緊張が織り交ざって、身体が硬直してしまう。 俺は、少し震える声で返事をした。 「……はい。お、起きています。」 「良かった。入るね!」 明るい先輩の声とともに扉が開かれ、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。 俺は、顔を合わせずらい気分だったけれど、失礼のないよう布団から少しだけ顔を出す。 やがて、ベッド近くまで来た先輩は、部屋の中にある小さな腰掛け用の椅子を置いて、そっと座った。 「うみっち、気分はどう?まだ、辛い?」 心配そうな口調で、緋彩先輩はこちらをじぃっと眺めてくる。 すごく、俺を気遣ってくれていることがすぐに分かった。 先輩の優しさに、じんわりと心の中が温かくなる。 「……少し、だけ頭痛がします。」
/452ページ

最初のコメントを投稿しよう!

573人が本棚に入れています
本棚に追加