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「……聞きづらいなぁ。」
俺は、ぽつりと小さな声でそう呟き、後ろへ倒れ込んだ。
頭痛がひどくなってきて、憂鬱な気分になる。
あんなに楽しかった夏休みが、霧江達のせいで台無しだ。
緋彩先輩が助けてくれなかったら、あそこで俺は、奴らに壊されていたかもしれない。
もうあいつらには、二度と会いたくない。
結局、恐怖は最後の最後まで、消えなかった。
……やっぱり俺は、何も変わっていないんじゃ……。
か弱い、守られてばかりの存在だ。
すぐに、以前のトラウマを思い出してしまう。
「うぅ、……駄目だ。もっと前向きに、ならなくちゃいけないのに。」
もっと、もっと頑張らないと。
立ち止まっている場合じゃない。
“あの人”と決着をつける覚悟だって、したはずなのに。
俺は、大丈夫、大丈夫、大丈夫と呪文のように何度も呟いて、自分自身に言い聞かせた。
ベッドの上に寝転がり、布団の中で身体を丸める。
頭が痛くて睡眠どころでは無かったけれど、心の中が不安定なせいで、今はじっと静かにしていたかった。
暫くすると、部屋の向こうから小さなノック音が聞こえてきた。
「うみっち~、起きてるかにゃあ~?」
……緋彩先輩の声だ。
途端に、俺のもとへ来てくれた嬉しさと不安と緊張が織り交ざって、身体が硬直してしまう。
俺は、少し震える声で返事をした。
「……はい。お、起きています。」
「良かった。入るね!」
明るい先輩の声とともに扉が開かれ、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。
俺は、顔を合わせずらい気分だったけれど、失礼のないよう布団から少しだけ顔を出す。
やがて、ベッド近くまで来た先輩は、部屋の中にある小さな腰掛け用の椅子を置いて、そっと座った。
「うみっち、気分はどう?まだ、辛い?」
心配そうな口調で、緋彩先輩はこちらをじぃっと眺めてくる。
すごく、俺を気遣ってくれていることがすぐに分かった。
先輩の優しさに、じんわりと心の中が温かくなる。
「……少し、だけ頭痛がします。」
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