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記憶力と躾
僕、加藤 翔太、8歳は小さい頃から記憶力がものすごく良い。
特に人の顔を一度見たら忘れない。
そして、我が家の教訓は知っている人を見たら必ずご挨拶をする事だった。
ご挨拶は人間関係の基本だからきちんとしなければいけないとお父様もお母様も僕に言った。
だから僕は話ができる2歳くらいから、一度あった人には
「こんにちは。」
と、まだ可愛かった声で挨拶をしたものだった。
周囲の大人たちは、僕が2度目にあった人に必ず挨拶しているとは思っていない。誰にでも挨拶をする良い子だと思っていた。小さいので一度目に挨拶しなくても別段不思議には思われなかった。
今、8歳の僕はご近所の方はすべて覚えているので、必ず挨拶をする。
ときどき、お年寄りだと、一度くらいスーパーですれ違っても覚えていない人がいる。そんな人にも僕はきちんと
「こんにちは。」
と、挨拶をして、小学校での僕の評判は上々だった。
僕、加藤 翔太は30歳になった。
近所の人は普通に
「こんにちは。」
と言っても誰も不思議に思わず、
「あら、こんにちは。」
と、にこやかに帰してくれるので問題はない。
ただ、通勤途中で会う人たちからは、少々気味悪がられているようだ。
僕は昔から身についてしまっているので、2度目にあった人には必ず
「こんにちは。」
と、言ってしまうのだが、相手は電車の中で一度すれ違った僕を覚えてはいない。
この世の中、知らない人から挨拶をされると君が悪いと思う用だ。
挨拶など、普通にすれ違った時に交わしても悪いものではないと思うのだが。でも、一人一人にその事情をする暇もない。
朝は皆、とてもいそいでいるし、帰宅時もみな、急いでいる。
しかし、大抵の人とは同じルートで会社に行くので、ほとんどの人が一度は会ったことがある人になってしまう。
僕は別の意味で相手から覚えられるようになった。
『ちょっと変な人。』
ただ、そう思われても、挨拶をするだけなので、特別警察に通報されることもなかったのだ。しかし僕はある日警察に捕まってしまう事になった。
「こんにちは。」
挨拶をした瞬間、
「ストーカーはお前だな。」
と、警察に取り囲まれた。
僕はまったく理由が分からず、困っていたが、何度か挨拶をした女の人が
「この人です。いつも気持ち悪いんです。全く知らない人なんです。」
と、警察に訴えている。
そう。僕は相手の感情を読み取るのがとても苦手だ。そして、最初にあった人には反射的に挨拶をしてしまう。しかし、何回あったかは覚えていられないのだ。そこで、今回のようなことが起きてしまったのだが、別に僕はその女の人の家までつけていったわけでもないし、結局『ストーカー』の疑いは晴れたものの、二度とその女の人に挨拶をしないように言われた。
それはこまったことだ。僕は一度あった人の顔を覚えてはいるが、どんな顔に人かを記憶することはできないのだ。しかたなくその女の人に事情を話して「これからもよろしくお願いします。」
と、言ったら、悲鳴を上げて逃げて行ってしまった。
きっと、明日もあの女の人に会ったら、一度見たことがあるので挨拶をしてしまうんだろう。
そうしたら、いよいよストーカーで捕まってしまうのかな。
おかしいなぁ。挨拶はいいことだし、一度あった人には挨拶をすると言うのは人生の途中まではとても評価されていたのに。
これから、僕のこの行動を治すことは難しいと思うので、今後の僕の人生は半分は塀の中になるのかもしれない。
でも、そうしたら会う人も決まってくるから問題も起きないだろう。
あぁ、みんなにこんな僕の事を『これからもよろしく。』と言えたら、挨拶位は許してくれると思うのだけれど。
ねぇ。皆さん。僕はどうしたらよいのでしょうね。
ネットで拡散でもしてみたらうまくいくでしょうか。
「この顔を見たら挨拶をされます。」みたいな拡散はどうでしょうか。
【了】
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