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離婚
翌日の夕方。里帆は広高を訪ねた。
「これ、離婚届……私はもう書いておいたから」
テーブルの上に、書類が出される。
広高は、何も言わずに記入していく。
里帆が家に入ってきた時から、広高は驚くほど静かだった。
てっきりまた口論になるかと思ったのに……。
意外だったが、里帆的には無言の方がありがたい。
このまま無事に終われば……と思っていた時だった。
「ほら」
広高が書き終わった離婚届を、押し付けてくる。
「荷物は郵送してやるから」
「ありがとう」
「どこに住むつもりなんだ?」
「佐々木さんのお家。落ち着くまでは居ていいって言ってくれたの」
「あいつが好きなのか?」
彼にしては珍しい沈んだ声音で、ポツリと訊ねる。
里帆は不審に思った。そして、驚いて目を丸くし、広高を見つめた。
俯いているせいで、顔はよく見えないが、意識をどこか遠いところ——もう二度と来ない過去にでも半分やっているような、そんな雰囲気を醸し出していた。
里帆は、再度驚いた。こんなにしおらしい広高は、もうずいぶん見ていなかったので、目の前にいる人は、本当に広高なのかと疑うくらいだった。
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