惹かれ合う

7/7
前へ
/203ページ
次へ
 「ねぇ、里帆さん」  夫の話題になった途端、ビクビクし始めた彼女に、安心させるように笑いかける。  「貴女は、自分が思ってるよりも、素晴らしい女性ですよ。ご自身のことを至らない人間なんて、そんなふうに思わないでください」  「佐々木さん……」  「少なくとも僕は、貴女ほど心惹かれる人に出会ったことは、ありません」  里帆は、もう茹でたタコのようになっていた。  それからのことは、あまり覚えていない。  ただ彼に誘われるままに、連絡先を交換したことは、確かだった。  「僕に出来ることなら、何でも言ってください。最大限お力になります」  彼はそう言って、優美な笑みと共に、里帆の手を両手で包み込んだ。  里帆は何だか、指に刺さった棘を、優しく抜いてもらったような——何とも形容し難い温かい気持ちになった。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

495人が本棚に入れています
本棚に追加