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「ねぇ、里帆さん」
夫の話題になった途端、ビクビクし始めた彼女に、安心させるように笑いかける。
「貴女は、自分が思ってるよりも、素晴らしい女性ですよ。ご自身のことを至らない人間なんて、そんなふうに思わないでください」
「佐々木さん……」
「少なくとも僕は、貴女ほど心惹かれる人に出会ったことは、ありません」
里帆は、もう茹でたタコのようになっていた。
それからのことは、あまり覚えていない。
ただ彼に誘われるままに、連絡先を交換したことは、確かだった。
「僕に出来ることなら、何でも言ってください。最大限お力になります」
彼はそう言って、優美な笑みと共に、里帆の手を両手で包み込んだ。
里帆は何だか、指に刺さった棘を、優しく抜いてもらったような——何とも形容し難い温かい気持ちになった。
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