御曹司

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 「そのボンボンがさ、馴れ馴れしく話しかけてきたんだよ。歳が近いからかもな。そいつは、一緒に働いてる社員が年配の人ばっかりで、若い人と関わる機会がないんだって言ってた。そりゃ上の役職にいけばいくほど、オヤジばっかりになるだろ。俺が下の人間だって、さりげなく馬鹿にしてんだろう。嫌味な奴だ」  穿った見方をしすぎだ、と里帆は思ったけれど、そんな指摘は求められてない。  「俺が既婚者だってわかると、そいつがなんか食いついてきたんだよ。まあ結婚とかそろそろ考えそうな年頃だから、先輩に聞いてみたかったんだろう」  「その人、何歳なの? あなたと同じくらいって言ってたけど……」  「29だ。その歳まで何の苦労もしてこなかったような、めでたい頭の御曹司だよ」  夫は、相当その御曹司のことが、いけすかないみたいだ。  嫉妬からくる悪口を吐く夫を、里帆はみっともないと感じた。  「それで、奥さんとはどんな感じか、って興味本位で訊いてくるもんだから、言ってやったんだ。駄目な妻だけど、大事にしてやってるって」  どこが。喉元まで出かかった言葉を、苦労して飲み下す。  夫は、さらに続ける。
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