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救いの手
里帆の呼び出しに、佐々木は快く応じてくれた。
自宅からも広高の勤めてる会社からも離れた、落ち着いた雰囲気の喫茶店で、二人は向かい合っていた。
「平日のこの時間で、本当に良かったんですか?」
里帆が訊ねる。
時刻は、14時。昼休みはとっくに終わり、今頃広高は働いている時間だ。
「暇な坊ちゃんの道楽みたいなもんだろう」と夫は鼻で笑っていたが、佐々木も一応社員だ。今は会社にいるべきではないか。
やはり次期社長ともなれば、いくらでも自由がきくのか。
「今日は、有休を取ったんです」
「え? わざわざ?」
「有休溜まっていたので、気にしないでください。他の社員からも、働きすぎだって言われてたんで、ちょうど良かったです」
里帆が申し訳なく思わないよう、気を遣ってくれているのがわかり、胸がキュンとなる。
見た目も性格も家柄も良くて、将来有望。
こんな人が私を好いてくれてるなんて、にわかには信じられないけれど——。
「それで、話とは何でしょうか? ——もしかして旦那さんに関することですか?」
その問いで、ハッと我に帰る。
そうだ。今日は夫のフォローをするために、来たんだ。
しっかりしなくちゃ。彼に心奪われてる場合じゃない。
「はい。夫のことなんですが——」
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