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自分の気持ちに目を背けるな——里帆は、痛いところを突かれたように、視線を泳がし身を引いた。
それを許さないと言わんばかりに、佐々木が冷たくなった彼女の手を、大きな両手でそっと包み込んだ。
「貴女が広高君に怯えていることは、火を見るより明らかです。どうか怖がらないで、僕に話してください。貴女の苦しむ姿は、見たくないんです」
佐々木の真摯な眼差しと言葉は、崩壊寸前の里帆の精神に、じわりと染み込んだ。
ずっと辛かった。でも、誰にもそのことを言えなかった。
声をあげても良いのか。助けてって言っても、良いのか。
里帆は、期待を込めた瞳で佐々木を見る。
彼は、里帆の揺らぐ心を察して、安心させるように、深く深く頷いた。
この人なら、きっと私の全てを受け入れてくれる。
里帆は陥落して、これまでの苦しみの何もかもを、佐々木に打ち明けた。
筋もめちゃくちゃで、しょっちゅう喉が詰まって、話すことがままならなくなったけれど、佐々木は辛抱強く聞いてくれた。
そんな彼の様子に、里帆は元気付けられて、一切合切心の澱みを吐き出した。
里帆の涙腺は、すっかり役立たずになり、口からは絶えず嗚咽が出てきた。
私、こんなに弱っていたんだ。
自分がいかに追い詰められていたのか、里帆はようやく実感できた。
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