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変身
「……すみません。取り乱してしまって」
おそらく一時間は経ったであろう。
落ち着いたら、恥ずかしさが押し寄せてきて、里帆は項垂れた。
いい年をして辺り憚らず泣いたことが、決まり悪かった。
幸い、客が全然いなかったので、好奇の目を向けられることはなかったが……。
「里帆さん」
佐々木が、凛とした声で名を呼ぶ。
「貴女は、一分一秒でも早く、広高君から離れるべきだ。これ以上壊れてしまう前に」
「……はい」
「彼に離婚を切り出してください。恐ろしいでしょうが……」
「わかりました。どうなるかはわからないけど、話してみます」
広高は、まず激昂するはずだ。
俺に不満があるって言うのか。お前なんて、何の価値もないくせに。
脳内で、様々な罵詈雑言が再生され、里帆の全身に鳥肌が立った。
「大丈夫です。……僕は貴女の味方です。貴女の味方は、ここにいます」
佐々木に再び手を握られ、里帆は少し勇気が出てきた。
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