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般若のような顔で、夫は怒鳴り散らす。
痛みと恐怖で、視界が滲む。
畳に、ポタリと水滴が落ちた。
夫はそれを見て、「汚ねぇな」と舌打ちした。
「……私は、不倫なんてしてない」
里帆は、それだけは訂正しなければ、と夫を睨みつけた。
「どうだか。佐々木ってやつに、ちょっと優しくされて、まんまとその気になっちまったんだろう。てか俺が嫌いな奴と同じ名字なのかよ。偶然とはいえ、よりいっそうムカつくな」
「同じ人よ」
「は?」
「同一人物だって言ってるの。あなたがいけ好かないボンボンだって僻んでた人と、私に寄り添ってくれた彼は、同じ人。佐々木隼人よ」
鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で、広高が固まる。ややあって、困惑気味に尋ねる。
「お前、どうやってあいつとそんな関係になったんだ」
「だから、責められるような関係じゃないって言ってるでしょ。道端で倒れていた彼を、私が介抱したのよ。それから色々相談に乗ってもらって……いやらしいことなんか、何もないわ」
「ふん。白々しい。どうせ御曹司って立場に惹かれたんだろう。それか顔。会社でも屍肉に群がるハイエナのように、女があいつのところに寄ってくるからな。お前は、ハイエナと同じってわけか」
軽蔑の眼差しを向けられ、里帆は頭に血が上った。
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