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保護
走り疲れて息も絶え絶えになった頃、里帆はようやく周りに関心を向けた。
辺りを見渡して、気付く。どうやら自分は、身に覚えのない場所にいるらしい……と。
幸いにも、携帯はポケットに入れていた。
迷わずに、数日前に登録した番号を押す。彼ならば、自分を助けてくれるという確信があった。
それに里帆は、今まさに彼に会いたかった。声が聞きたかった。
恋焦がれていたのだ。
ワンコールで、求めていた相手は出た。
「どうしました、里帆さん? もしかして広高君に、何かされましたか!?」
時刻は22時を回っていた。こんな夜遅くに電話してくるなんて、ただ事ではないと思ったのだろう。佐々木の声に、緊張が走る。
「離婚を切り出したんです。そしたら口論になってしまって。ヒートアップしてきて、これは危ないな、と直感的に感じたので、着の身着のまま飛び出してきてしまいました」
「では何かされる前に、逃げ切れたということですね? 良かった……」
安堵のため息が、長々と吐き出される。
「それで家から出て……今どこにいるんですか?」
「あ、それがわからないんです。道に迷ってしまったみたいで」
「えっ、それは良くないですね。近くに目じるしになるものは、ありますか?」
「それが困ったことに、お店とか何もないんです。とても大きな家が、目と鼻の先にありますが、個人のお宅なんて、目じるしになりませんよね……近隣住民でもない限り、言ってもわからないでしょうし……」
肩を落とす里帆。
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