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「ッ!! 佐々木……さん。あなたが電話に出たということは、妻がそこにいるんですね? いや、何。ちょっとした夫婦喧嘩ですよ。大したことじゃあないんです。結婚すれば、こんなことは日常茶飯事です。おおかた、あいつが一時の感情で、馬鹿げたことを口走ったんでしょうが、そう目くじら立てるようなことを、僕は彼女にしていませんので、どうぞご安心して、里帆に変わっていただいて構いません」
相手がお偉いさんとわかるや否や、広高は声色を不自然すぎるほどに、柔らかくして、媚を売るような感じになった。
しかし、言葉遣いこそ丁寧だけれど、隠しきれない苛立ちが、ところどころに滲み出ている。
余裕がない。相当怒っている。
里帆は、サッと血の気が引いた。
しかし、佐々木はまったく怯まずに、言ってのける。
「しらばっくれないでください。君がどんな人間かは、わかってます。ですので、金輪際里帆さんには近づかないでほしい」
「いくら会社で偉くても、さすがに夫婦の事情に首を突っ込む権利はないですよね? これは二人の問題です。他人にどうこう言われる筋合いはありません」
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