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「反省の色なし……ですね。うちの社員にこんな人柄の者がいたなんて、本当に残念です。——父に相談してみますかね。雇ってはいけない類の人間が、うちの社にいると」
「脅しか! そんな卑劣な真似して、恥ずかしくないのか!」
「脅しの意図はありませんよ。君がちゃんと奥さんの要望に耳を貸して、無理強いをやめれば、何も不満はないんです。君の人間性を疑ったことを詫びましょう」
『クビにされたくなければ、里帆さんの願いをきけ』
佐々木は、暗にそう伝えているのだ。
「わかりました。彼女の望みを聞きます」
「ありがとうございます。では里帆さんに代わりますね」
佐々木は目配せをして、里帆に携帯を返した。
これは上手くいくかもしれない。ずっと怖がっていた夫から、解放されるかもしれない。
激しく打つ心臓に手を置いて、里帆は耳に携帯を当てた。
「おい、こんな時間に真っ先に佐々木を頼るなんて、やっぱりデキてたんじゃないか」
「違う。偶然会っただけなの。信じられないかもしれないけど……」
「まったくだ。それでお前の要求っていうのは、離婚のことか?」
「……うん。別れたい。というより私たち別れた方がいいと思う。広高だって、私といていつも不機嫌そうじゃない」
「裏切ったくせして、こっちを気遣ってやってる……みたいな物言いをするな」
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