夫からの鬼電

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 まだ誤解している。佐々木とは不倫の関係じゃないと、何度も言ったのに。  でももういい。どうせ何を言っても聞く耳持たないんだろうし。  里帆は、夫への感情が急激に冷めていくのがわかった。  「いいよ。してやるよ、離婚。お前みたいなやつ、こっちから願い下げだ。さっさと離婚届渡しに来い」    広高は吐き出すようにそう言って、通話を切った。  「やった……」  自然と出てきた言葉に、解放感が自分を満たしていくのを実感する。  「上手くいってよかったです。まさかここまで簡単に承諾してくれるとは、驚きでしたけど……貴女よりも職が大事とは、つくづく夫失格ですね」  佐々木が、腹立たしげに言う。  「その程度の存在なんですよ。夫にとって私は。自分の立場が危うくなれば、あっさり切ることができる……ちょっとショックですね」  「あんな人のことは、早く忘れるが吉ですね。大丈夫ですよ、これからは僕がついていますから」  里帆は抱きしめられた。  これから……これから私の新しい人生が始まるんだ。  この人と一緒に幸せになるんだ。  開けてきた未来に、胸がときめいた。
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