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「不倫の関係ではない……って言ったはずだけど——」
「そんなことを訊いているんじゃない。お前があいつを好きかどうかを知りたいんだ」
「どうして今更そんなことを知りたいの?」
「……わからない」
本当にわけがわからないというように、彼は渋い顔をして首を横に振った。
「少なくとも、佐々木の方はお前のことが好きだろう。でなきゃ、自分のとこで引き取ろうなんて、いくら親切でも言わないだろう」
「そう、ね……。実は告白されていたの」
「お前はそれにどう返したんだ?」
「その時は、何も言えなかったけど……家を飛び出した日に、偶然佐々木さんに会って……咄嗟に運命だ! って感じたの。それでリミッターが外れて彼に……抱きついちゃって……」
その時のことを思い出して、里帆の顔がポッと赤くなる。
今の彼女は、誰がどう見ても恋する乙女だった。広高のことなんか意識の外で、ただ佐々木の素晴らしさが思い出されるばかりだった。
里帆のそんな様子を目の当たりにした広高は、敗北感を覚えた。こいつはもう、俺を一ミリだって想っていない。怒りや悲しみといった感情さえ、抱いていない。ひたすら佐々木との未来だけを心に思い描いていて、離婚さえ成立すれば、あとは俺に何の感慨もないんだ。
そう考えているうちに、広高は胸の辺りがムカムカしてきて、最悪な気分になった。自分の存在がまったく眼中にない、ということが、無性に腹立たしかった。
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