13人が本棚に入れています
本棚に追加
1
私、望月 叶恵は、スーパーに卵を買いに行く途中で、信号無視をした乗用車に跳ねられました。それが私の最後の記憶です。
それからどれほどの月日が流れたのでしょう。
私は、自宅のベッドの上で目覚めました。
最初に目にしたのは見慣れた寝室の天井と、それから、私の顔を心配そうにのぞき込む夫である栄治の顔でした。
その栄治の顔は、私の知っている栄治よりも、少しだけ目尻に皺が刻まれて、髪にも白髪が混じっていました。
「叶恵…わかるか?」
「栄治?ワタシ・・・」
「体は痛くないか?動かせるか?」
「カラダ…?」
私は両手を目の前に持ち上げてみました。
左手の薬指にはめられたプラチナの結婚指輪、横長の小さな爪、若い頃に火傷した傷跡、それらはどれも私のモノでした。ただ、私の手は少し痩せ細って、指輪はかろうじて抜け落ちずにいるようでした。
「叶恵…カナ…エ…」
栄治は私のお腹である場所に顔を埋めて泣きました。
私は、自分の置かれた状況が理解できずにいました。
「栄治…ワタシ・・・?」
最初のコメントを投稿しよう!