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サジュームもセストの好景気を支えているのが造船業で、一時、その材料の木材の供給が追い付かず取り合いになっていたことは把握していたが、そこまで材木商の間で抗争状態になっているとは知らなかった。
「でも、木材の供給が滞っている話は聞きませんが…」
「エヴァンスが死んでも、アナトリアは別のルートで木材が手に入れられたんだよ」
「なるほど」
「水面下で大勢のガラティア軍人が活動しているのは間違いなくて、それを今のセスト首長のザカリーは良く思っていない。出来れば、自分たちの影響力を削がれない形でセストを存続させたいんだよ」
「ガラティアの支配下には入りたくない、と?」
「アナトリアの支配も受けたくはないんだろうがな。とにかくザカリーは自治権を守りたいんだが、行政官の中にはガラティア寄りの人間もいて、反ザカリー派を作っている」
「市井と行政で同じような構図があるということですか」
「ザカリーとその派閥の人間は、行政と街中からガラティアの影響力を取り除きたいと考えていて、それにウチが乗っかることになった。マリウスは今、ザカリー周辺の警護にあたっている」
「なるほど。…で、そこに私がどう絡めばいいんですか?」
「お!察しが良いな」
にやりとしたガイウスが、サジュームの胸元に人差し指を当てた。
「お前には、囮になってもらいたいんだよ」
「囮?」
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